濱田 裕子 さん東通村 / 就農7年目
- 経営概要(栽培品目)
- いちご 100坪ハウス16棟、ほうれん草、さつまいも、そば
- 就農前の職業
- 会社員
- 茨城県出身。東通村でいちごを栽培していた祖父母の離農話を契機に、Iターン(孫ターン)して、祖父母の農地を継承し就農。結婚後は、夫と共同経営者となり、夏秋いちごの栽培に取り組む。
就農した経緯
私の祖父母は東通村でいちごを栽培する専業農家でした。長くいちご栽培を続けていましたが、祖父母が80代後半になり、体力的に限界を感じ始めた頃に、「そろそろ引退したいので、後を継いで欲しい」と、毎年のように電話が掛かってくるようになりました。
当時、私は東京都内で会社員として働いており、農業がどんな仕事かイメージできませんし、土地勘もなく、知り合いもいません。祖父母を心配する気持ちはあったものの、後を継ぐことは考えていませんでした。
その一方で、祖父母が頑張ってきたいちご栽培をここで終わらせてしまうのはもったいないという思いもあり、農業について調べるようになりました。
その中で、生産だけでなく、加工や販売にも自ら取り組むことで付加価値を高める6次産業化を知り、農業にも色々な可能性があると感じ、興味を持ちました。
祖父母から電話が掛かってくるようになって数年が経過した頃、10年ほど勤めた会社では、一通りの仕事を経験し、自分の中ではやりきった感があり、この先のキャリアを考えた時、「何か新しいことに踏み出すなら今」という思いが強くなりました。そこで、祖父母の後継者になることを決意し、東通村へ移住しました。
就農準備・就農後について
研修や支援制度の活用について
就農を決意してからは、情報収集に励みました。都内で開催されている就農フェアにも参加し、青森県ブースでの就農相談をきっかけに、県の担当者の方とつながることができ、その後もメールで相談に乗ってもらいました。
東通村に移住した後は、県の担当者から下北地域県民局の担当者を紹介してもらい、現地で就農に向けた情報提供やサポートを受けることができました。
新規就農者が活用できる制度として、農業次世代人材投資事業を下調べしていたので、県民局に相談し、同事業を活用しながら農家研修を行うこととなりました。
祖父母から早期に経営継承できるよう、研修期間を1年と決め、受入れ農家にも1年間に凝縮して指導をしていただきました。
栽培技術の習得について
農家研修で栽培技術や経営の考え方を教えていただきました。また、研修の空き時間には、祖父母の作業も手伝いながら、自分が継承するハウスでの作業の流れも覚えていきました。
また、農協や県が主催する研修に参加したり、りんご協会の基幹青年養成事業の研修にも参加して、優良園地を視察したりと、技術向上の機会を積極的に活用しています。
農地の確保について
祖父母の農地やハウスを継承したので、農地を探す苦労はなく、栽培技術の習得に集中することができました。
就農当初は、祖父母と一緒に8棟のハウスでいちごを栽培しましたが、その後、いちご農家を目指し、農家研修をしていた夫と結婚し、共同経営者となるタイミングで、産地生産基盤パワーアップ事業を活用し、ハウスを8棟増設して、現在の規模(16棟)に拡大しました。
資金や機械等の確保について
多少の生活資金はありましたが、就農に向けた貯金はしていなかったので、農業で収入が安定するまでは、農業次世代人材投資事業には助けられました。
生産物の販売について
夏秋いちごをメインに栽培していて、主力品種は「すずあかね」「赤い妖精」の2種類です。どちらも四季成りいちごなので、下北地域の気候に適していると思います。
販売先は市場とネット販売で、市場4、ネット販売1の割合です。ネット販売は「食べチョク」「ポケットマルシェ」の産直ECサイトを利用しています。
私が就農する前までは、市場出荷のみでしたが、収入源が一箇所しかないことに強い不安を感じました。市場出荷だと、どうしても価格変動があるため、収入が安定せず、先の見通しが立てられません。そのため、販路を複数持つことで、経営を安定させたいと考え、ネット販売で販路を広げることにしました。
ネット販売に取り組んだことで、お客様から直接コメントをいただけることも励みになっています。嬉しいコメントが頂くこともあれば、クレームを頂くこともありますが、どんな内容も次に活かせる原動力になるので、大切にしています。
また、現在は、地元企業に委託していちごの加工品を製造していますが、将来的には、設備を整えて、自ら加工に取り組むことも検討しています。
地域との関わりについて
下北地域に友人や知り合いがいなかったので、研修先の農家にお願いして、農家が集まる飲み会やイベントに連れて行ってもらいました。人前で話すことは得意ではありませんでしたが、頑張ってネットワークを広げる努力をしました。そのおかげで、地域の農家と知り合うことができました。
若手生産者が主催する産直イベント「しもきたマルシェ」に参加しているのも、ネットワークを広げる延長です。一次産業は地域との関わりが深いので、イベントを通して、地域内外の方に下北地域の農業の魅力を発信しています。
これからの課題としては、下北地域のいちごの産地化があります。最近、若手のいちご農家が増えているものの、各々の販路で販売しているため、数量がまとまらず、販売力の強化につながっていません。下北地域のいちご農家がもっと連携できれば、安定して販売することができるのでは、考えています。
就農後の生活について
就農後に結婚して、出産もしているので、就農前と一概に比較することは難しいですが、生活リズムは大きく変わったと思います。
会社員時代、平日は仕事、土日は休日だったので、仕事とプライベートのオンオフをしっかり切り替えて生活していました。
就農後は、繁忙期と閑散期があるので、仕事量が一定ではなく、勤務時間や休みも決まっていませんでした。繁忙期は早朝から夜遅くまで作業する日もあり、祖父母と一緒に作業をしていた頃は、なんて大変な仕事だろうと感じたものです。
そのため、私が経営を引き継いでからは、勤務時間を決め、日曜日は休日にするなど、パートの方にも働いてもらいやすい環境作りに努めています。
やりがいや苦労した点について
自営業だと自分の裁量で決められる部分が大きいので、子供に何かあった時、すぐに駆けつけられることは良かったと思っています。ただ、その分、自分を律する必要もあります。
また、子育てをしながら農業経営をするというのは、実体験としてなかなかハードです。子供は4歳と2歳で、まだまだ手が掛かります。どれだけ仕事が忙しくても、育児に時間を割かれてしまうので、作業が遅れてしまうことへの葛藤もあります。
また、経営者は自分たちなので、どんなことも自分たちで乗り越えないといけない、というプレッシャーや苦労もあります。
青森県の農業について感じたこと
青森県と言えば、やはりりんご。りんごあっての農業だと感じます。 青森県の農業をけん引する品目だからこそサポートも手厚いですが、いちごはまだまだだと思います。ただ、伸び代はあるはずなので、これから成長していけるように頑張りたいです。
また、北海道に近い気候で栽培できる上、本州と陸続きなので輸送コストが安く抑えられるため、立地はとても良いと思います。
今後の目標
生産量を増やし、収益を安定させ、いちご農家として軌道に乗せることが一番の目標です。
また、全国で開催されているティラノサウルスレースなど、下北地域を盛り上げる楽しいコンテンツづくりにも挑戦したいです。
就農を目指す方へのメッセージ
まずは、地域に知り合いを作ることが必須条件だと思います。私の場合は、県民局を通じて、地域の農家を紹介してもらったことや、農家の集まりに参加してネットワークを広げたことで、たくさんの情報を得ることができました。
今の時代、大概のことはネットで情報収集できますし、県民局などの窓口に相談に行くと丁寧に説明してくれます。ある程度のことは自分で調べる必要がありますが、分からないことは周りに聞けば何とかなります。
農業は食べ物を自分の手で生産する仕事です。食べ物を生産するということは、生きることに直結するので非常にやりがいを感じます。苦労も多いですが、自分で目標を立てて取り組める職業なので、就農するか迷っているなら、ぜひ前進してみてください。
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