新しい就農のスタイル「第三者継承」
海外留学の経験から新たな働き方を農業で確立させたい。

木村恵莉子さん りんご

木村 恵莉子 さん青森市 / 就農1年目

経営概要(栽培品目)
りんご(わい化栽培)70a
就農前の職業
民間企業の事務員として勤務
  • 青森市出身。弘前大学卒業後、県内の民間企業に就職。転職し、東京都内の民間企業に勤めた後、フィリピンでの語学留学を経て、ワーキング・ホリデー制度を利用してオーストラリアで農業に従事。2020年に帰国し、青森市浪岡にあるりんご園でのアルバイトをきっかけに、第三者承継により2022年4月から新規就農。

第三者承継とは

後継者がいないためにリタイアする農業者の栽培技術や販路、ブランドといった無形資産と、農地や機械施設などの有形資産を、家族以外の人に一体的に引き継いでいくもので、新規就農者が新たに農業経営を開始する手法の一つ。

就農した経緯

大学卒業後は青森市内の民間企業で1年、上京して東京都内の民間企業で5年間勤務しました。その後、大学時代から興味のあった語学留学をするため退職し、3か月フィリピンに滞在。その後ワーキング・ホリデー制度を利用してオーストラリアへ行きました。

オーストラリアでは、住む場所と仕事が同時に確保できる農場をアルバイト先にして、季節毎に農場を移動する季節労働者として働きました。具体的には、いちごの摘取りやトマトのパック詰め、キウイフルーツの摘果など、様々な農作業の経験を積むことができました。

当初は2年間滞在するつもりでしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、5か月程で日本に帰国することになり、日本での働き方を考えた時、出身地である青森市が好きで、なじみのある津軽弁を話して気楽に過ごしたいという思いがあったので、地元で働く選択をしました。

また、会社勤めの経験はあるものの、組織の中で分業しながら働くよりも、事業全体を自分で把握できる自営業の方が自分の性格に合っていると感じていたことや、語学留学で出会った韓国や中国圏の友人の多くが「将来は起業する」という話をしていたので、私にもできるかもと思えるようになり、オーストラリアで経験した農業を仕事にすると終身で働けるのでは、と考えるようになりました。

帰国後、青森市に戻り、農業求人サイトで地元の求人を探しましたが、条件に合う求人が見つからず、どうしようか考えていた時に、たまたま農協のりんご詰めのアルバイトを募集するポスターを見かけました。そこで、実家の近くにある「あおもり就農サポートセンター(以下、サポートセンターと言う)」へ相談に行くと、のちに第三者承継することになる青森市浪岡の山内さんを紹介してもらい、葉取りのアルバイトをしたことが就農のきっかけとなりました。

就農準備・就農後について

研修や支援制度の活用について

サポートセンターに相談に行ってから実際に就農するまで、とてもスムーズに進んだと思います。 2020年8月に相談へ行き、9月には山内さんのところでアルバイトを始め、冬季の農作業がない時期には、農協の選果場でりんご詰めのアルバイトも経験しました。そして、翌年3月から1年間、山内さんの下で研修し、2022年4月に山内さんの園地を借りて、就農しました。

サポートセンターには、驚く程手厚くサポートをしてもらいました。初めて相談に行った際には、事前に連絡もせず、「農業に興味があるんですが・・・」と突然訪問したにもかかわらず、たくさんの資料や農業についての情報を教えていただきました。2回目は、その資料を読み込み、自分の考えを整理した上で、アポイントを取って改めて相談に行きました。

また、冬季のりんご詰めのアルバイトもサポートセンターに紹介してもらいましたが、りんご農家を目指し、春から研修を始めると決めたタイミングだったので、選果場でりんごに触れることができたのはよい勉強になりました。

農家研修中は農業次世代人材投資事業の準備型、就農後は経営開始型を活用していますが、その申請に当たっても、書類や計画書の作成について、数字の根拠まで丁寧に教えていただきました。

木村恵莉子さん りんご わい化栽培

栽培技術の習得について

山内さんの下で研修を受けながら、栽培技術を指導いただきました。山内さんと2人1組のペアとなって作業をする機会が多く、小さいことでも疑問に感じることがあれば、何でも質問をさせてもらいました。山内さんは褒めて伸ばすタイプで、りんご栽培についての考え方も共感できるので、経営開始してからも頼れる師匠として近くで支えてもらっています。

また、農協や県が主催する研修に参加したり、りんご協会の基幹青年養成事業の研修にも参加して、優良園地を視察したりと、技術向上の機会を積極的に活用しています。

農地の確保について

今年は山内さんから園地を借りましたが、来年はこの園地を購入します。また、5年後を目処に、現在山内さんが所有する1.3haの園地も購入し、最終的には2haまで拡大する予定です。

資金や機械等の確保について

就農のための貯金はしていませんでしたが、農家研修中は農業次世代人材投資事業準備型や選果場でのアルバイトで生活ができました。 今現在も、農薬代や資材費等の経費は農協への後払いとなるため、りんごの売上が入るまでは大きな出費がなく、運転資金も特に問題はありません。 第三者承継で就農したことで、山内さんが使っている機械や設備なども共同利用しており、将来的にはその資産を引き継ぐ予定です。

木村恵莉子さん りんご 葉取り作業

生産物の販売について

70aの園地でりんご4品種をわい化栽培しています。 品種は、シナノスイート、ほのか、ぐんま名月、葉とらずふじです。

シナノスイート、ほのか、ぐんま名月の3品種は農協に出荷しています。 葉とらずふじは、山内さん個人に販売し、山内農園の商品として販売されています。 販路開拓も大切だと思いますが、新たに販路を広げるためには、栽培面積の拡大や雇用など、長期計画として考える必要があると思うので、まず現状の規模を維持して技術を身に付け、地盤を固めてから考えていきたいと思っています。

地域との関わりについて

自分のペースでこつこつと作業ができる今の環境が心地よく、1年目ということもあって、自分の作業で手一杯のため、他の新規就農者と交流する機会は少ないですが、近隣の生産者や農協とは良い関係を築けていると思います。

今は一人で作業をしていますが、面積が増えると雇用が必要になり、その人手を確保するためには、地域とネットワークを持っていることが大切だと考えているので、地域とのつながりは広げたいと思っています。

就農後の生活について

会社員時代に比べると生活は大きく変わりましたが、オーストラリアで農業を経験し、早朝からの作業や休みの取れない繁忙期などを知っていたので、就農後のギャップは少なかったように思います。 最近、園地の近くに引っ越したので、より作業しやすい環境にもなりました。

やりがいや苦労した点について

黙々と作業することが自分に向いているので、ストレスの少ない環境で働けています。 繁忙期以外だと、比較的自由に休みも取れますし、夏場は暑さが厳しいので、朝早めに作業をして、昼は長めに休憩を取るなど、体にも無理のないように調整ができます。

また、園地の場所がよく、静かで景色がとてもきれいです。梯子の上で作業をしていると、岩木山がきれいに見えますし、稲刈りの時期になると周囲の田んぼが黄金色に輝いており、気持ちのいい環境で働けています。

一方、天候によって作業が遅れると、スケジュールがずれてしまい、全体の作業に影響が出てしまうのには苦労します。繁忙期は体を壊しそうなほど忙しくなりますが、その後の長期休暇をモチベーションにして、メリハリある働き方ができるのは良い点だと思います。

木村恵莉子さん りんごの木

青森県の農業について感じたこと

高齢の農家の方は本当に働き者で、「休んだら作業が遅れてしまう」「休まないのはいつものこと」と、働き過ぎてしまう方をたくさん見てきましたが、自分にはそういう働き方が難しいと感じています。

オーストラリアで経験した省力的で効率的な大規模経営に憧れはありますが、りんごという品目的にもこの地域で実践することは難しいため、まずは、週に1日は休日を設けることや、1日の労働時間を無理のない時間にするなど、しっかり休息を取りながら、効率的に長く働けるような働き方にシフトしていくことが大切だと思っています。

今後、人を雇う場合も、時短で働ける人をうまく活用するなど、私なりのスタイルで農業の働き方を変えていきたいです。

今後の目標

これから10~15年経過すると、周辺のりんご農家が高齢化し、自分が承継する園地が増えていくと思うので、近隣の農家とコミュニケーションを取りながら、先を見据えて、規模拡大に向けた準備をしていきたいと思っています。

将来的には法人化して、生産・加工・雇用創出の一連の流れを生み出し、私が引退する時には、後継者に引き継げる経営が理想ですね。

就農を目指す方へのメッセージ

農業は、さぼったらさぼった分、頑張れば頑張った分自分に返ってくるので、自分のペースでしっかり取り組める人には良い仕事だと思います。

私自身は、農業に対して高い志や熱意を持ち合わせていた訳ではなく、自分で自分を終身雇用するために自営業を目指し、自分の条件に合うのが農業だったという感じなので、そういう視点で農業を見ても面白いと思います。

また、就農することを決意してから、スムーズに就農することができたのは、入り口が良かったからだと思います。サポートセンターの手厚い支援や、山内さんとの出会いによって第三者承継で就農ができ、1年目からしっかり収益が得られる状態で農業が始められたことは、新規就農者には大変心強いことです。私の就農は優良事例だと自分でも思っているので、農業に興味を持っている方の参考になればと思います。

りんご 木村恵莉子さん

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青森県 農林水産部 構造政策課 
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〒030-8570 青森市長島1丁目1-1
(代)017-722-1111 内線 5059 
(直)017-734-9463

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