営業職から地元特産のいちご農家に転身
経営で心がけているのはメリハリ

掲載日:2025年3月27日

葛西貴大さん

葛西 貴大 さん田舎館村 / 就農4年目

経営概要(栽培品目)
冬春いちご13.2a(とちおとめ、ハウス3棟(9.9a) + 育苗ハウス1棟(3.3a))
就農前の職業
会社員(営業職)

田舎館村出身。柏木農業高校、青森県営農大学校を卒業し、肥料メーカーに就職。営業職として4年間、東京都と青森県で勤務。地元で生産が盛んないちごに興味を持ち、1年半の研修を経て2020年に就農。

就農した経緯

幼少期は農業に興味がなかったのですが、実家が兼業農家(水稲)だったこともあり、農業関係の学校を卒業して、肥料メーカーに就職しました。東京から青森市に転勤し県南担当として農家を訪問し、いろいろな話を聞くうちに、サラリーマンと違い、自分の頑張り次第で、収入が増えることを教えてもらい、実家のある田舎館村に帰って農業をすることを意識し始めました。

あるとき、テレビを見ていたら、田舎館村のいちご観光農園の映像が流れ、甘くて香り豊かないちごが生産されていることを知り、実家に帰った際、改めて地元のいちごを食べてみたら、その美味しさに惹かれて自分も栽培してみたくなりました。

役場の窓口で就農相談をしたところ、最初、テレビで紹介されていた高設栽培でいちごを生産している観光農園に連れて行ってもらいましたが、パイプハウスや高設ベットの導入経費が高すぎて、高設栽培でのいちご生産は断念しました。

その後、主に土耕栽培でいちごを生産している「田舎館いちご研究会(会員6名)」の方を紹介していただき、生産技術を身につけるため、研修を受けることにしました。そして、先輩たちのサポートを受けながらなんとか就農にこぎつけることができました。

葛西貴大さん いちご収穫の様子

就農準備・就農後について

研修や支援制度の活用について

田舎館いちご研究会の先輩から研修を受け、1年半にわたって苗の作り方や病害虫の見分け方など栽培方法を学びました。

就農に当たっては農業次世代人材投資事業(準備型、経営開始型※現:就農準備資金、経営開始資金)と日本政策金融公庫からの融資を活用し、パイプハウス周りの整備は県と村の補助事業を活用しました。

また、就農3年目には、中古ハウス1棟を増築するため、暖房機1台を県の補助事業を活用して導入しました。

栽培技術の習得について

田舎館いちご研究会の先輩の元で研修を行い、栽培の知識や技術について学びました。

青森県内では他に八戸のいちご生産が盛んですが、田舎館は、八戸と比べ、雪が多く、日照量が少ないなど栽培条件が違うため、独自の田舎館方式でしか、いちごが栽培できないということでもあります。

田舎館いちご研究会では、毎年、12月と2月に会員のほ場巡回を行い、栽培管理等について会員相互でアドバイスし合うなど技術の研鑽に努めています。

さらに、品質の高いいちごを生産するため、(地独)青森県産業技術センターに協力してもらい、花芽分化を検鏡してもらった上で畑に定植する取組を行っているほか、近年では、病害虫防除や収穫時期を早める方法などのいちご栽培技術全般について指導を受けています。

葛西貴大さん いちご

農地の確保について

まず、冬でもハウスでいちごが作れるよう除雪の入る道路沿いの農地を探すことにしました。農地を探すため、農業委員会の農地情報を何度も見に行きましたが、条件に合った農地を見つけることができませんでした。半ばあきらめていたところに、田舎館いちご研究会の仲間から道路沿いの農地を紹介してもらい、なんとか農地を確保することができました。

農地がなければ何もできなかったので、研究会の支援がなければ就農は諦めていたと思います。

資金や機材等の確保について

いちご生産では、温度が低いと株自体が休眠したり、ミツバチが飛ばず不受精になり奇形果が発生するなど収量品質が低下するため温度管理が重要ですが、冬場の燃料費がかさみます。

就農以後は燃料費の高騰が続いていますが、研究会では国のセイフティーネットに加入しており、高騰分の補助が受けられる支援制度を活用しています。

就農時、パイプハウスや暖房機等をすべて新品で揃えると初期投資が高くなるため、引退した研究会のメンバーから格安で譲ってもらったもの(パイプハウス1棟、地中暖房機3台、暖房機1台)などを活用しているほか、格安で譲られたパイプハウスは、育苗ハウスとして自分で移設しました。

また、畑の準備に使用する土壌消毒機は、田舎館いちご研究会が所有しているものを共同利用しています。

葛西貴大さん いちごビニールハウス内の加温気
葛西貴大さん いちごビニールハウス内のダクト

生産物の販売について

いちごが年間で最も高値になるのはクリスマス前までの時期です。この期間は特に良品が栽培できるよう気を配り、温度管理に万全を期すため燃料を十分費やします。経費の多くは燃料費を占めるため、ある程度単価が落ち着いた年始以降にかさんだ分を均すよう、収支にメリハリをつけることを意識しています。

出荷先については、現在は弘前中央青果への出荷がほぼ100%です。安定した収量と品質を確保できるようになったらケーキ店や道の駅など新しい取引先も開拓したいと考えています。

葛西貴大さん 収穫したいちご

就農後の生活について

いちご農家には、とにかく休みがないです。1年365日、必ず毎日ハウスに足を運びます。自分が意図して休日を作ろうとしなければ休みをとれず、就農当初は大変でしたが、4年目にもなると当たり前になってきた感じがあります。収穫時期などの農繁期にはまとまった時間がとりにくいですが、農閑期は水やりだけして、その後は自由に時間を使えるため、そこは前職と比べて良い点かもしれません。

苦労した点、やりがいについて

いちご栽培の苦労は、自分の裁量でコントロールできない点です。とにかくいちごの面倒を見ることが大切です。他の作目も相応に手間がかかると思いますが、自分の中でいちごは他の品目の比にならない部分があると思います。

特に、今年度は、大雪で、ハウスが倒壊しないよう毎日のように除雪をしながら、管理・収穫をしていましたが、除雪にかかる時間が多くなり、葉取りなどの管理が不十分になったため、収量が少なくなってしまいました。

また、燃料費のやりくりにも苦労しています。いちご栽培は先にも挙げましたが、冬場の温度管理が重要。例えば12月初旬のハウス内の温度は24℃に設定しているのですが、そのためにボイラーは焚きっぱなしです。燃料費は高騰が続き、自分は就農時点で高止まりしていたので、安い時期を知りません。

やりがいについては、正直なところ、それを感じるまでの余裕が今はまだありません。とにかくいちごの出来に自分の生活が懸かっているので必死です。売上が今よりも増えてきたら喜びが感じられるかもしれませんが、まだまだの状況だと思っています。

葛西さんの一日

農繁期

葛西さんの一日 農繁期

農閑期

葛西さんのスケジュール 農閑期

年間スケジュール

表は横にスクロールできます。

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
育苗 定植 収穫前
作業
収穫
収穫

今後の目標

研修先から言われた一人前のいちご生産者の目安とされる「年間売上700万円、坪単価2万3,000円」を直近の目標としています。現在はパイプハウス3棟で生産していますが、父が退職して手伝ってくれるなど労働力が確保できれば、もう1棟増やしたいと思います。新品種や収穫期間を前進させる育苗方法の導入などにも取り組み、生産額を引き上げて所得を安定させていきたいです。

葛西貴大さん パイプハウス

就農を目指す方へのメッセージ

農業は思っている以上にきつく、気安く勧められない仕事だというのが本音です。近年、資材が高くなっているのにもかかわらず、農産物によっては価格がほぼ変わっていないからです。その上でアドバイスするならば、農作業のアルバイトや農作業体験などを通じて農作業の1年間の流れを学ぶとともに、どれくらいの経営規模が必要か、どんな機械・施設が必要かなど情報収集し、計画を作って具体的な数字を見て、農業で生活していけるか考えることが重要だと思います。確認しましょう。

就農を決意したら、まず、農地を探すことから始めてください。農地を見つけるのが難しく、就農に最も必要なことです。自分としても農地を紹介してくれた研究会がなければ、おそらく就農はできませんでした。

農業は初年度から成功することは難しいと思います。就農して初めの4~5年は割に合わないと感じることが多いかもしれませんが、強い覚悟をもってやらなければいけないと思います。

葛西貴大さん 取材の様子

就農に関する詳しい情報はこちらをご覧ください

就農までのステップ
就農支援制度
相談窓口一覧

先輩インタビュー

株式会社NAMIKIデーリィファーム
雇用就農
株式会社NAMIKIデーリィファーム
野辺地町 / 生乳・仔牛
葛西 貴大さん
独立自営就農
葛西 貴大さん
田舎館村 / 冬春いちご(とちおとめ)
株式会社 甲田ファー夢 代表取締役	甲田秀行さん
経営士・農業士
株式会社 甲田ファー夢
代表取締役 甲田 秀行さん
十和田市 / キャベツ,ながいも,にんにく
山田俊さん・園実さん
独立自営就農
山田 俊さん・園実さん
鶴田町 / ぶどう(スチューベン)
有限会社 まごころ農場 代表取締役 斎藤靖彦さん
経営士・農業士
有限会社 まごころ農場
代表取締役 斎藤 靖彦さん
弘前市 / ミニトマト,りんご,農産加工
有限会社 風丸農場 代表取締役 木村農也さん
経営士・農業士
有限会社 風丸農場
代表取締役 木村 農也さん
鯵ヶ沢町 / 水稲,大豆,りんご
田邊 真太郎さん
独立自営就農
田邊 真太郎さん
平内町 / お米,そば,大豆,野菜(ピーマン他、多品目栽培)
「攻めの農林水産業賞」受賞者たちの今を動画で御紹介します
特別インタビュー
「攻めの農林水産業賞」受賞者たちの今を動画で御紹介します
株式会社中里青果
雇用就農
株式会社中里青果
五戸町 / ながいも、だいこん、ごぼう
みらいファーム・ラボ 株式会社小栗山農園
雇用就農
みらいファーム・ラボ 株式会社小栗山農園
弘前市 / りんご
農業生産法人 株式会社よしだや
雇用就農
農業生産法人 株式会社よしだや
三戸町 / にんにく
沢森 靖史さん
独立自営就農
沢森 靖史さん
田子町 / にんにく, えごま
高井 啓さん・美奈子さん
独立自営就農
高井 啓さん・美奈子さん
平川市 / ミニトマト, ネギ
木村 恵莉子さん
独立自営就農
木村 恵莉子さん
青森市 / りんご
佐々木 基さん
独立自営就農
佐々木 基さん
十和田市 / 黒毛和牛, 短角牛
濱田 裕子さん
独立自営就農
濱田 裕子さん
東通村 / いちご, ほうれん草, さつまいも, そば

お問い合わせ

青森県 農林水産部 構造政策課 
担い手育成グループ
〒030-8570 青森市長島1丁目1-1
(代)017-722-1111 内線 5059 
(直)017-734-9463

就農相談以外のお問い合わせはこちら

就農や雇用相談に関する相談はこちら

facebookでシェア Xでシェア