兄弟で家業承継、キャベツを軸に経営拡大。
キーワードは「楽しむ」&「格好いい」農業!

掲載日:2025年1月16日

株式会社甲田ファー夢 代表取締役 甲田秀行さん

甲田 秀行 さん十和田市 / 株式会社 甲田ファー夢 代表取締役

経営概要(栽培品目)
キャベツ(5ha)、ながいも(3ha)、にんにく(2.5ha)

青森県十和田市出身。農業高校などでの講師を経て24歳から家業の農業に携わり、2017年に個人事業主として弟の祐介さんと「甲田ファー夢」をスタート。
2019年から両親より事業承継、2022年9月に「株式会社甲田ファー夢」として法人化。
青森県青年農業士(令和元年度認定)、青森県青年農業士会会長。

会社概要

会社名 株式会社 甲田ファー夢
代表取締役 甲田 秀行
所在地 〒034-0102 青森県十和田市大沢田字大下内11番地
創業 2022年
連絡先 TEL/FAX:0176-27-3648
事業内容 ・露地栽培野菜の生産
・農産加工品の製造
・農産品の委託加工・委託梱包業務
従業員数 家族5人、常雇用2人、臨時雇用3人
甲田ファー夢HP https://www.koda-farm.com/

就農した経緯

農家の長男として生まれ、週末はもっぱら畑仕事の手伝いをしていました。
幼少時代は畑で遊ぶことが好きでしたが、次第に労働力として駆り出されるようになって友達とは十分に遊べず、思春期を迎えたころには「農業は将来なりたくない職業」と考えていました。
高校時代ではバレー部で活動し、そのときお世話になった先生にあこがれて教員を志望しました。

東京での生活にも興味があって東京農業大学に進学したのですが、そこで農業への考え方が180度変わりました。就農を志して全国から集まった同窓生たちの熱意に触れ、「恥ずかしい」「やりたくない」と思っていた農業や自分が育ってきた環境は、貴重なもの、うらやましがられるものだったんだ、と認識できたのです。

甲田秀行さん 先輩インタビュー

大学卒業後は教員を目指して、2年ほど農業高校で臨時講師を務めましたが、本格的に農業をやりたいと思い、実家での就農を決意しました。
2017年には別の仕事に就いていた弟を誘い、2人で現在の法人の前身である「甲田ファー夢」を設立、2年後には両親から経営継承しました。

経営の取組について

栽培・生産への取組

経営の主軸になっているのは業務用キャベツです。両親から事業を継承した後、取引先から業務用のキャベツを出荷してほしいという要望があったのがきっかけでした。

当時はスーパーに卸すような家庭向けのキャベツづくりしか知らず、ノウハウがないままに業務用品の栽培を始めたもののうまくいきませんでした。
そこからさまざまな種苗店や他の生産者さんに出向いて、栽培手法を学び試行錯誤。数年がかりでなんとか業務用キャベツの生産にめどをつけました。

承継当時は30aほどだったキャベツの作付面積は、現在5haまで拡大。作付けを年々増やしていけたことは、後の農業法人化にもつながりました。

甲田秀行さん キャベツ畑

兄弟での経営

業務用キャベツに取り組み始めたころは技術力が低く、大量の規格外品が生じる時期が必ずありました。
なんとかこれを売りさばけないかと考え、兄弟2人で飲食店を中心に営業に回ることにしたのです。トラック1台分のキャベツを2~3日掛けて売っていたのですが、門前払いされることが多く、笑われることもあって悔しい思いをしました。
この経験から「悔しさを忘れず、いいキャベツづくりをしよう」と2人で決心し、生産に取り組むようになりました。

2人で甲田ファー夢を立ち上げる際にまず着手したのが、実はオリジナルキャラクターの制作だったんです。兄弟で経営することについて当初、周囲からは「うまくいかない」と反対ばかりでしたが、「自分たちだからこそやれるんじゃないかな」という思いがありました。
キャラクターは兄弟での経営理念を体現する、自分たち2人の分身。さまざまな挑戦の中で壁にぶつかったとき、原点に立ち返らせてくれる存在ですね。

甲田ファー夢キャラクター「ひですけ丸」
甲田ファー夢キャラクター「ひですけ丸」

加工品について

にんにくの規格外品を売りさばこうと、ネット販売を取り入れたのですが、売れ行きが安定せず苦労した時期がありました。
妻は自分と結婚するまで農業に携わっていなかったため、消費者としての感覚を持っていたのですが、「(規格外品とはいえ)どうしてこんなに単価が安いの?」という疑問を投げかけてきたんです。
そこが商品開発の入口になって、完成したのが規格外にんにくをペースト状にした「にんにくマリアージュ」でした。たまねぎ入りと、りんご入りの2種類を開発し、令和4年度青森県特産品コンクールで青森県物産振興協会会長賞を受賞できました。

受賞が自信になったことは確かですが、販路の確保については1次産品に比べて難しいと感じています。実際、現在の加工部門の売り上げは全体でみると大きくはありません。今後はさまざまな消費者層に商品の魅力をPRできるよう努めていくつもりです。

「にんにくマリアージュ」りんご入りとたまねぎ入りの2種類
「にんにくマリアージュ」りんご入り(左)とたまねぎ入り(右)の2種類

農福連携への思い

弟が以前、障害者福祉施設に勤務していたことをきっかけに、施設利用者の職場体験や臨時作業員を受け入れています。現在はノウフクJAS(障害者が生産行程に携わった食品及び観賞用の植物の農林規格)の認証取得を目指しています。

ある養護学校の卒業生が畜産業に就いたのですが、就業した理由を私が尋ねたところ「格好よかったから」という答えが返ってきました。それまで自分は第1次産業が格好いいと思ったことがなく「農業の魅力を表現できる場はもっとあるんだ」と痛感させられました。農福連携というものに面白さを感じる契機にもなりましたね。

今後も作物を育てるだけでなく、販売にまでつなげ、自分たちが収穫したものを買ってもらえる喜びや新たなやりがいに変えて、「格好よさ」が膨らむような形にしていきたい。それは人格形成の面ではもちろん、農業そのものにとっても良いことだと思っています。

後継者育成について

青森県営農大学校の学生実習を受け入れています。現在、実習後に入社して3年目を迎えた社員がいるのですが、彼は農家の長男で家業をやらされているという自分と同じ境遇だったため、彼の気持ちがよくわかりました。

彼のような人に対し、農業はやらされるのではなく、楽しむもの。楽しむためには、農業は「儲かる」「格好いい」ということを見せていく。そうすることで次世代にも響くのではと考えています。自分には4人の子どもがいますが、彼らにも農業は誇らしい仕事であると伝えたい。そんな思いで取り組んでいます。

甲田ファー夢 甲田秀行さん

自分の下での実習を経て、彼は自発的に実家への就農を決断しました。彼と私、どちらにとっても、この3年間はあるべくしてあった時間で、何か学ぶべきものがあったのではと感じ、嬉しく思っています。

実習生の受け入れについては、ベテラン農家だけでなく、自分たちのような年齢の近い生産者とのマッチングが就農のカギになるはず。自分たちも若い世代からの情報をキャッチしながら一緒にやっていくことで農業が盛り上がっていくのでないでしょうか。

農業のやりがいについて

作物を育てて消費者に届くまで、どのくらいの時間が掛かるか想像してみてください。
キャベツは畑に苗を定植して70日、ながいもは2年半くらい。にんにくは11月に植え始め、収穫が翌年の6月。これほどの期間を掛けて、ものづくりに執着すること、直面することはこの職業以外にないと思っています。

そして収穫するときに作物に感じる「よく育ってくれた」という感謝や達成感、「この野菜を人の口にまで運びたい」という思いは、農業の現場でなければ味わえないものです。

甲田秀行さん キャベツ
甲田秀行さん にんにく

産地発展のために重要と考えていること

この地域は年配の生産者が多く、手が回らなくなった農地を貸し出したり、引退を余儀なくされたりする農家も少なくありません。そうした放棄地は若手農家が引き受けていますが、一つの経営体が管理できる農地には限界があります。
そのため、経営から手を引いた先輩農家を雇用していく仕組みが将来的に必要だと考えています。労働力の確保という点だけでなく、農業技術の継承という意味でも重要です。

青年農業士としての活動

青森県青年農業士の認定を令和元年度に受け、令和6年度から青森県青年農業士会の会長を務めています。
会は、先進的なビジョンを持っていたり、参考になる事例を手掛けたような、格好いい先輩たちが多い組織で、そうした人たちとのコミュニケーションが図れる場と感じています。

ただ、認定されてわずか5年の自分が会長職に就くというのは、それだけ産業人口が減ってきていると痛感しています。周りの生産者にも青年農業士になるメリットを伝える等のアプローチができる組織作りを、任期中にやっていきたいと考えています。

プライベートの過ごし方、農家ならではの楽しみ

何も考えないで過ごす時間が好きです。
その手段として、昼から大好きなお酒を飲んで、お気に入りの音楽を聴きながらバーベキューをする(笑)。結局は子どもたちが一緒になってガヤガヤすることになるんですが、それまでの間でも、十分に贅沢な時間を過ごすことができる。それが一番のストレス解消ですね。
旬のものを旬の時期に味わえるというのも、農家ならではのことだと思います。

今後の展望と課題

直近の目標は総売上額を1億円以上にすること。そのためにしっかりした雇用体系の確立に取り組んでいます。

経営規模の拡大ももちろんですが、売り上げを伸ばすという点に重きを置くと、冬場の農業をどう展開するかが課題です。にんじんなど雪を利用した栽培品目を持つ生産者もいますが、甲田ファー夢では作業受託を重要視しています。

現在は取引先の仲卸業者と協力して、ごぼうの一次加工と袋詰めの作業をしています。また、ドローンを購入したので、自分たちの農地でなく、他の生産者の農薬散布も請け負っていきたいと考えています。周辺地域の生産者でお互い助け合う雰囲気を育てていければと感じています。

甲田秀行さん ごぼう袋詰め
甲田秀行さん ごぼうの一次加工で袋詰め

あとは栽培品目について。青森県にはりんご、にんにく、ごぼうなど、日本一の品目はありますが、近年は気候変動が激しく栽培が安定しない。青森県の新しいブランド、次のナンバーワンになる品目は何か、察知しようと常にアンテナを立てています。

若手生産者・新規就農者へのメッセージ

やはり、ものづくりを楽しんでもらいたいですね。
農業は、例えばいいクルマに乗るためだったり、レジャーや趣味に必要なお金を稼ぐための手段であってもいいと思います。
ただ、続けるためには楽しむことが必要です。楽しみがなければ、やらされている感が強くなっていき、いつか限界が来ると思います。自分も農業で稼ぎ続け、楽しみ続けることを追求し続けていきます。一緒に農業を楽しみましょう!

甲田秀行さん 若手生産者・新規就農者へのメッセージ

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